大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)5949号 判決 1977年12月02日

原告 関口倉吉

被告 五月女勇 外一名

主文

一  原告と被告五月女勇との間において、別紙物件目録(一)記載の土地は原告の所有であることを確認する。

二  原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、被告五月女勇は別紙登記目録第一及び第二記載の各登記の、被告月村建設株式会社は同目録第三及び第四記載の各仮登記の各抹消登記手続をせよ。

三  原告に対し、被告五月女勇は別紙物件目録(三)記載の建物を退去して、被告月村建設株式会社は同建物を収去して、いずれも同目録(一)記載の土地を明け渡せ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  主文一ないし三項と同旨

(二)  被告らは原告に対し、各自、昭和四三年一一月一日から昭和四七年八月一四日まで月四万円、同月一五日から別紙物件目録(一)記載の土地(以下「(一)の土地」という。)の明渡に至るまで月二万円の各割合による金員を支払え。

(三)  被告五月女は原告に対し二〇〇〇万円及びこれに対する昭和四七年九月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(五)  (一)のうち主文三項の部分及び(二)(三)につき仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  (一)の土地は原告の所有であり、別紙物件目録(二)記載の土地(以下「(二)の土地」という。)も昭和四七年八月一四日まで原告の所有であつた。

(二)  ところが、(一)の土地については、被告五月女のために別紙登記目録第一及び第二記載の各登記(以下「第一、第二の登記」という。)が、被告会社のために同目録第三及び第四記載の各仮登記(以下「第三、第四の仮登記」という。)がそれぞれ経由されている。

(三)  被告五月女は昭和四三年一一月一日(一)及び(二)の土地(以下両土地を併せて「本件土地」という。)を被告会社に賃貸し、被告会社は同日以降(一)の土地上に別紙物件目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有し、被告両名は、同日以降、右建物を共同して使用し、(二)の土地については昭和四七年八月一四日まで、(一)の土地については現在に至るまで、これを共同して占有している。

(四)  原告は昭和四七年八月一五日訴外秋山清一に対し(二)の土地を代金六五〇〇万円で売り渡したところ、被告五月女は(二)の土地にも経由していた第一、第二の登記と同一の登記の抹消登記手数料名下に秋山から二〇〇〇万円を下らない金員を取得した。この二〇〇〇万円は、原告が同被告の不法な登記のあるため(二)の土地を低価額で売却して損害を受け、その反面として同被告が法律上の原因なくして取得した不当利得である。仮にそうでないとしても、右売買に際して、同被告が自己の名義の登記を有することを奇貨として原告を害する意思で登記抹消料名下に二〇〇〇万円を取得したのは不法行為にあたる。

(五)  よつて、原告は被告らに対し次のとおり求める。

1 被告五月女に対し、(一)の土地が原告の所有であることの確認。

2 被告五月女に対し第一、第二の登記の、被告会社に対し第三、第四の仮登記の各抹消登記手続。

3 被告五月女に対し本件建物の退去と、被告会社に対し本件建物の収去と、いずれも(一)の土地の明渡、及び昭和四三年一一月一日から同四七年八月一四日までは(一)及び(二)の各土地につき一か月二万円宛(合計四万円)、同月一五日から(一)の土地の明渡ずみまでは一か月二万円の各割合による賃料相当損害金の連帯支払。

4 被告五月女に対し不当利得金、予備的に損害金として二〇〇〇万円の支払。

二  請求原因の認否

(一)  請求原因(一)のうち、本件土地がもと原告の所有であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同(二)及び(三)の事実は認める。

(三)  同(四)の事実は否認する。

(二)の土地は、昭和四七年八月一五日、その所有者である被告五月女が訴外経済協力連合会に代金九三一〇万〇八〇〇円で売り渡し、原告はそのうち六五〇〇万円を受領した。(二)の土地が原告の所有であるとすれば被告五月女が締結した右売買は無効であるから原告に損害はない筈であり、もし原告が売り渡したとすれば、原告が(二)の土地を失つたのはみずから代金六五〇〇万円でこれを売却したためであり、原告主張の二〇〇〇万円を同被告が取得したこととの間に因果関係はなく、また右二〇〇〇万円は秋山が出捐したものであるから原告の損害とはいえない。

(四)  同(五)のうち賃料相当損害金の額は争う。

三  抗弁

(一)  本件土地は、被告五月女が原告から代物弁済によつて取得したものである。すなわち、被告会社は原告に対し浦和市本太町二丁目一八五番、一八六番、一八七番の宅地三筆、合計三二六坪一合八勺(以下「浦和市の宅地三筆」という。)を代金二二八二万円で売り渡し、原告から右代金のうち一五〇〇万円の支払のため訴外東伸石油株式会社(代表者は原告の長男関口祐志)振出、原告裏書の約束手形四通、金額一五〇〇万円(内訳は、満期同年八月三一日、金額三七五万円のもの二通、満期同年九月五日、金額三八〇万円と、満期同日、金額三七〇万円のもの各一通)の交付を受けていたところ、被告会社の代表者である被告五月女は、被告会社から右手形四通の裏書譲渡を受けた。そして、昭和四三年一一月一日原告代理人としての田沼弁護士と被告五月女本人が川口簡易裁判所に出頭し、原告と同被告との間に、同被告の原告に対する右手形金債権の代物弁済として、原告は本件土地の所有権を同被告に移転する旨の即決和解(同庁同年(イ)第二五号)の成立をみたことにより、同被告は本件土地の所有権を取得した。

(二)  和解調書には既判力があるから、原告が右和解に反して代物弁済による被告五月女の所有権取得を争うことは許されない。

(三)  田沼弁護士は、原告を代理して前記即決和解をする権限を原告から直接に、仮にそうでなくても原告がその所有する財産の管理処分一切を委任し、これに必要な包括的な代理権を与えていた祐志から、授与されていた。

(四)  原告は、被告五月女が経済協力連合会に(二)の土地を売り渡した際に、売買代金のうち六五〇〇万円を受領して、この売買を承認したから、不当利得も不法行為も成立しない。

四  抗弁に対する認否

(一)  抗弁(一)の事実のうち、被告ら主張のとおり即決和解が成立したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  同(二)の主張は争う。

(三)  同(三)の事実は否認する。

(四)  同(四)の主張は争う。

五  再抗弁

(一)  田沼弁護士に原告が代理権を与えた事実はなく、仮に与えたとしても、祐志が和解の相手方である被告五月女に弁護士の選定・委任を依頼し、被告五月女が田沼弁護士に原告の代理を委任したものであるから、本件和解は双方代理にあたり、無効である。  (二) 本件和解においては、一五〇〇万円の手形金債務の存在が前提とされていたところ、浦和市の宅地三筆の代金は二二八二万円ではなく、和解成立前に全額弁済ずみであり、他に債務もなく、右手形金債務は架空のものであることが、その後原告に判明した。したがつて、本件和解及びこれによる代物弁済は、要素の錯誤により無効である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は否認する。

第三証拠関係<省略>

理由

一  本件土地がもと原告の所有であつたこと、(一)の土地について被告五月女のために第一、第二の登記が、被告会社のために第三、第四の仮登記があること、昭和四三年一一月一日以降被告五月女が被告会社に本件土地を賃貸し、被告らが本件土地及びそのうち(一)の土地上に被告会社が所有する本件建物を共同して使用占有していること(ただし、(二)の土地は昭和四七年八月一四日まで)は当事者間に争いがない。

二  そこで、被告五月女が代物弁済によつて本件土地を取得したとの抗弁について判断する。

(一)  昭和四三年一一月一日、川口簡易裁判所において、原告代理人としての田沼義男弁護士と被告五月女本人が出頭し、原告と同被告との間に、同被告の原告に対する手形金債権一五〇〇万円の代物弁済として、原告は本件土地の所有権を同被告に移転する旨の本件即決和解(同庁同年(イ)第二五号)が成立したことは、当事者間に争いがない。  (二) 被告らは、和解調書には既判力があるから原告がこれに反する主張をすることは許されないと主張するが、和解に代理権の欠缺又は錯誤があるときには、和解が調書に記載されても既判力を生じないと解すべきである(最高裁昭和二四年(オ)第一八二号同三三年三月五日大法廷判決・民集一二巻三号三八一頁もそのような場合にまで裁判上の和解に既判力を認める趣旨であるとは考えられない。)から、被告らの右主張は採用することができない。

(三)  田沼弁護士の代理権の点について判断する。

成立に争いのない甲第五号証、第九号証、第一八号証の四、乙第一〇号証、第一九号証、第三〇号証、証人関口祐志の証言により成立を認める甲第一八号証の五、後記認定の経緯により真正に成立したものと認める乙第一一号証、証人関口祐志の証言(一部)、原告本人及び被告五月女本人の各尋問の結果(いずれも一部)に弁論の全趣旨を総合すると、次のような事実が認められる。

原告は、昭和四三年一〇月一八日川口簡易裁判所から、和解期日の呼出状とともに和解申立書(甲第五号証)の副本の送達を受けた。しかし、原告は、かねてより、長男の関口祐志に対し、祐志が代表取締役、原告が取締役をしている東伸石油株式会社の経営の一切を任せていたばかりでなく、本件土地を含む原告所有の不動産の管理を委ね、これに担保権を設定することはもとより、これを他に売却すること、さらには原告のために他から不動産を買い受けること、原告を当事者とする訴訟事件について弁護士の委任等必要な措置をとることについて、包括的な代理権を与えていたので、原告は、右呼出状及び和解申立書副本についても、これを祐志に交付して、その処理を委ねた。祐志は、これまで東伸石油株式会社や原告を当事者とする訴訟事件につき、その対処や弁護士の選任等をすべて被告五月女に依頼し、同被告の処理するところに任せてきていたことから、本件和解事件についても、和解申立書副本の記載内容を認識したうえ、被告五月女に対し、いつものとおり原告のため弁護士を委任することを依頼し、印刷された訴訟委任用の委任状用紙に「関口」と刻した、原告のための事務処理にもしばしば用いてきたことのある自己の印を押し(乙第一一号証。もつとも、当時印刷部分以外がどの程度記入されていたかは判然としないが、結局は、祐志ひいては原告の意思に基づいて現在のとおり完成された。)、これを同被告に交付した。被告五月女は、この委任状を、これまでにも東伸石油株式会社又は原告のため何回か訴訟委任をしてきたことのある田沼弁護士に交付して、原告のため本件和解事件を処理することを委任した。田沼弁護士は、和解申立書記載の和解条項の趣旨どおりに、本件和解を成立させた。しかし、この和解申立書は被告五月女が笹内純一弁護士の助力を得て作成したものであつて、田沼弁護士が同被告の協議を受けて作成に関与した形跡はない。以上のとおり認めることができ、証人関口祐志の証言中右認定に反する部分は、前掲各証拠及び成立に争いのない乙第二五ないし第二七及び第三二号証の各一、二に照らし、信用することができない。右認定事実によると、田沼弁護士には原告を代理して本件和解をする権限のあつたことが明らかであり、弁護士法二五条又は民法一〇八条に該当する事由があるとすることはできない。田沼弁護士の代理権に関する原告の主張は失当である。

(四)  次に錯誤の点について判断する。

原告は、本件和解において代物弁済により消滅する債権とされた手形金債権一五〇〇万円の原因債権は、浦和市の宅地三筆の売買代金二二八二万円の残金である旨主張し、原告本人の供述にはこれにそう部分があり、甲第一七号証の一、二、乙第一号証の記載もこれを裏付けるかのようであるが、証人名尾良忠の証言及び次に掲げる各証拠に照らすと採用することができない。かえつて、前示甲第五号証、第九号証、第一八号証の四、五、乙第一〇号証、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第一五号証の一の一ないし三、第一五号証の二、第一九号証の一、二、第二四号証の一ないし八、乙第二号証の一ないし七、第三号証の一ないし五、第四、第五号証の各一、二、第二二号証の一、二、第三四号証の三、第三六号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一二号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認める甲第二三号証の一、二、右乙第三六号証と弁論の全趣旨により成立を認める甲第二七号証の一、二、右甲第二七号証の一、二、乙第三四号証の三と弁論の全趣旨により、成立を認める甲第二六号証の四の二ないし五、原本の存在及び成立を認める甲第二二号証、証人関口祐志の証言、被告五月女本人の尋問の結果(一部)に弁論の全趣旨を総合すると、次のような事実を認めることができる。

原告は、その代理人である関口祐志を通じて昭和四三年三月三日ころ被告会社から、当時訴外石井一幸が所有し、他に建物所有の目的で賃貸中であつた浦和市の宅地三筆を、右賃借権の負担付のままで買い受けた。その代金は坪当り二万円(総額六五二万三六〇〇円)の定めであつた。祐志は右代金支払のため、そのころ二度に分けて、東伸石油株式会社振出の金額六五万円と五八七万五二〇〇円(違算のため一八〇〇円過大)の小切手各一通を被告会社に交付し前者は同月七日ころ、後者は同月二九日に決済され、これによつて右代金は完済された。被告会社はそのころ石井から浦和市の宅地三筆の所有権を取得し、登記簿上は、被告会社が同年三月四日に同日の売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由し、同月一三日、この仮登記を抹消したうえ、中間を省略して石井から原告名義に所有権移転登記が経由された。ところで、関口祐志は、昭和三九年九月の菊池色素株式会社との土地建物の売買取引以来、被告五月女と知り合い、同被告に弁護士資格のないことは知つていたが、土地の売買やこれにからむ紛争の処理を任せてきていたところ、東伸石油株式会社が、昭和四三年九月初めころ手形の不渡を出し、同月一三日には滝野川信用金庫から、本件土地を含む多数の不動産につき債務者を東伸石油株式会社として同信用金庫のために設定されていた根抵当権について、取引解約の通知と根抵当権実行の予告を受けるに至つたので、祐志はこれらの対策についても同被告に相談した。本件和解は、このような状況のもとで、同年一〇月一六日に申し立てられたものであり、その申立書には、被告五月女の原告に対する昭和四三年六月一〇日の貸金一五〇〇万円の支払のために交付を受けていた振出人東伸石油株式会社、裏書人原告の約束手形四通、金額一五〇〇万円(内訳は、満期同年八月三一日、金額三七五万円のもの二通、満期同年九月五日、金額三八〇万円と、満期同日、金額三七〇万円のもの各一通)が満期に支払われなかつたので、本件土地をその代物弁済とすることによつて紛争を解決したいとの趣旨の記載はあるが、右一五〇〇万円が浦和市の宅地三筆の売買残代金である旨の記載はなく、和解調書にもその旨の記載はない。原告はもとより、祐志も右一五〇〇万円が浦和市の宅地三筆の売買残代金を意味することを知らず、東伸石油株式会社の倒産直後の混乱した状態にあつて、相談相手として信頼していた被告五月女からの申立によるものであり、他になんらかの支払義務があるか、ないしは債権者対策上の必要があるのかも知れないと誤信したためか、本件和解を成立させた。

以上の事実が認められ、これらの事実によると、本件和解成立当時、浦和市の宅地三筆の売買代金は既に完済されていて残存していないのに、原告は、本件土地をその残代金債権の代物弁済とする趣旨のものであることを知らずに本件和解を成立させたものであつて、代物弁済によつて、消滅すべき債権の内容及び存否について錯誤があつたものというべきである。右錯誤は要素の錯誤にあたり、本件和解は無効というほかはなく、民法上の和解契約としての効力を生ずる余地もない。

原告の錯誤の再抗弁は理由があり、被告らの代物弁済の抗弁は失当である。

三  以上によれば、原告の請求のうち、被告五月女に対し、本件土地のうち(一)の土地が原告の所有であることの確認、(一)(二)の各登記の抹消登記手続、本件建物の退去・(一)の土地の明渡を求める部分、被告会社に対し、(三)(四)の各仮登記の抹消登記手続、本件建物の収去・(一)の土地の明渡を求める部分は、理由がある。しかし、被告らに対し、(一)の土地については昭和四三年一一月一日から右明渡しまで、(二)の土地については同日から昭和四七年八月一四日までの賃料相当損害金の連帯支払を求める請求は、その額についての立証がないから、理由がない。

四  不当利得、不法行為の請求について判断する。

成立に争いのない乙第九号証の二、第一三ないし第一五号証、第一六号証の一、二、被告五月女本人の尋問の結果により成立を認める乙第七、八号証、第九号証の一に被告五月女本人の尋問の結果を総合すると、(二)の土地は、その登記簿上の所有名義人である被告五月女が昭和四九年七月二八日訴外経済協力連合会会長秋山清一に代金九三一〇万〇八〇〇円で売り渡したこと(右経済協力連合会が法人ないし権利能力なき社団・財団であるのか、秋山の別称にすぎないのかは証拠上明確でないが、そのいずれであるかは本訴にとつて重要ではないので、以下買主を便宜「会長秋山」という。)、当時(二)の土地には、原告が訴外石川島播磨重工業株式会社及び同雨宮貢のために設定した抵当権、仮登記担保権に関する登記があつたほか、原告の申請に基づいて処分禁止の仮処分登記も経由されていたので、右売買に際し、被告五月女、会長秋山、原告代理人弁護士平林良章の三者間で話し合つた結果、右代金のうち五〇〇〇万円は石川島播磨重工業株式会社の、一〇〇〇万円は雨宮の各担保権を抹消するための資金として、五〇〇万円は原告が仮処分申請を取り下げる代償として、以上合計六五〇〇万円を会長秋山が直接原告に支払うことにより、原告は被告五月女が(二)の土地を自己の所有土地として会長秋山に売り渡すことを了承し、その妨げとなる右各登記を抹消する旨の合意が右三者間に成立したこと、原告はこの合意に基づき会長秋山から同年八月一五日に六五〇〇万円を受領したことが認められる。右認定事実によると、右三者間の合意が成立したことにより、原告と被告五月女との間には、(二)の土地に関する限り、原告が売買代金のうち六五〇〇万円を買主の会長秋山から直接受領することにより、被告五月女が(二)の土地を自己の所有土地として会長秋山に売却することを認め、これによつてその所有権の帰属及び同被告名義の登記の効力に関する争いを止めることを約する旨の和解契約が成立したものと認めるのが相当であり、この認定を妨げる証拠はない。すると、被告五月女が会長秋山との間の売買により会長秋山からなんらかの金員を取得したとしても、これをもつて不当利得とすることはできず、また、不法行為とすることもできない。原告は六五〇〇万円を受領して(二)の土地の売買を承認したとの旨の被告らの主張は、つまるところ右和解契約の成立を主張するものと解せられ、理由がある。原告の不当利得金の請求、不法行為による損害金の予備的請求は、いずれも失当たるを免れない。

五  よつて、原告の請求を理由のある限度において認容し、その余の部分は棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条、第九三条を適用し、仮執行の宣言については、その必要ありと認めるに足りないのでその申立を却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 平田浩)

(別紙) 物件目録

(一) 東京都北区赤羽町一丁目三八二番一

宅地 六六・六一平方メートル

(二) 同所同番三三

宅地 五九一・八七平方メートル

(三) 所在 同所三八二番地一

家屋番号 三八二番一の三

構造 軽量鉄骨造木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建事務所

床面積 三三・一二平方メートル

(別紙) 登記目録

第一 昭和四三年一一月一一日受付第三九六三七号

所有権移転登記

(原因・同月一日代物弁済)

第二 昭和四三年九月二八日受付第三三八五三号

賃借権設定登記

(原因・昭和四二年一二月一三日設定契約)

第三 昭和四二年一二月一三日受付第四五三七八号

所有権移転請求権保全仮登記

(原因・同月一二日売買予約)

第四 昭和四四年二月八日受付第三七六二号

賃借権設定仮登記

(原因・同月四日設定契約)

注 所轄登記所はいずれも東京法務局北出張所

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例